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畳の上で靴のまま「つま先トントン」

高校3年のときのある日。修学旅行の事前説明会みたいな感じの学年集会が行われました。

場所は、通常、全校集会の場合は体育館ですが、今回は学年集会なので、柔道場でした。たぶん、体育館は、他学年が授業で使用していたのかもしれません。いずれにせよ、わたしたち3年生は、全員が柔道場に集められました。

もちろん柔道場は畳敷きですので、入り口で上履きを脱ぎ、手に持って入場となります。さすがに、出入り口は狭いので、渋滞するんですが、集合の時はぞれぞれ生徒はバラバラに集まってくるので特に問題はありませんでした。

問題は、解散時です。学年全員が一斉に出口に殺到するわけです。

ですが、そこは狭い出入り口。当然に渋滞し、なかなか前に進みません。生徒は、手に上履きを持って畳の上をゆっくりゆっくりと出口に向かいます。

ふと、「トン」という音が、となりから聴こえてきました。畳の上に、物が落ちる音。「なんだろう?」と思い、見ると、すぐ右前方にいた、隣のクラスの女子が上履きを下に置いた(落とした)音だったようです。

これを見て、私は「落としちゃったのか?」と思いましたが、そうではありませんでした。

その女子は、畳の上であるにも関わらず、そのまま上履きに足を入れました。おそらくは、どうせ込み合っていて、みんなが一斉に上履きを出入り口で履くことによって、よけい混雑する。だから、ここから上履きを履いておけば、渋滞が緩和される。そういった考えからか、時間がかかってイライラしているのか、わかりませんが、とにかく畳の上で土足です(厳密には上履きであるので汚れを伴った実害的土足ではありませんが、それでも汚いものだし、なにより「畳に靴」というシチュエーションで満足です)。

しかも、これだけでも十分に衝撃なのに、さらにこの女の子は、上履きを履いた後、つま先をトントンとやったのです。畳の上で、上靴を履き、さらに、靴のつま先で畳を・・・。

柔道場は新しく、畳もきれいな状態。そんな畳が、ちょっとでも傷つかなかったか、すぐにでも近づいて見てみたかったですが、とてもできる状況ではなく、それだけが心残りでした。

それでも、この瞬間の、この「トントン」のシーンは、高校生活で1番といっていいくらいの、印象に残る出来事となりました。

雨の日に

小学校の昇降口は、「外に面した一段高くなったコンクリート部分」があり、その奥に「下駄箱」がありました。生徒は、コンクリート部には靴を脱いで上がるように指導されており、靴下になって歩いて、奥の下駄箱まで進むことになっていました。

私の通学班には、クラスでもそこそこ人気者の可愛い少女がいました。その彼女とは、同じ班ですので、毎朝一緒に登校していました。ただし、一緒とはいえ、私が副班長で、列の一番後ろに並び、彼女は班長なので、先頭を歩いているため、しゃべったりすることは、あまりありませんでした。

そして、ある雨の日。

昇降口の手前で、班は解散となり、三々五々、下駄箱に向かいます。

で、私もコンクリート部分で靴を脱ぎ、下駄箱へ向かいました。

雨が吹き込み、コンクリート部分の、外寄りの淵は、濡れていましたが、それでもだれもが、いつものように、ちゃんと靴を脱ぎ、濡れている部分を飛び越えるか、つま先立ちになって歩いて、下駄箱へと向かっていました

ですが、班長の彼女は違いました。彼女は、みんなが靴を脱いで上がっているコンクリート部分に、なんと靴のまま上がったのです。当然、雨の中を歩いてきたわけですので、文字通りの泥靴です。

そんな汚れた靴のまま、彼女はその他の生徒、みんなが靴下になって歩いているコンクリート部分を、堂々と通っていったのです。

しかも、そのまま、奥の下駄箱の前まで歩いていったのです。

たしかに、入り口付近は、雨が吹き込んで、濡れており、靴下が汚れてしまうので、靴のまま上がりたいという気持ちもわかります。(とはいえ、だれもが我慢して靴を脱いでいましたので、靴のまま上がった彼女はそれだけでもスゴイ)

ですが、昇降口の奥の、完全にキレイなままの、一切濡れていない下駄箱の前のスペースまで、靴のまま入っていって、下駄箱の前で、ようやく靴を脱いだのです。

当然、彼女の歩いたところには、点々と泥の混じった濡れた足跡がついていました。そして、その足跡は、次から次へとやってくる、下級生の白い靴下が消し去っていったのだと思います。

ということで、それを目撃して以来、雨の日が、なによりの楽しみとなったのは言うまでもありません。
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